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逆風の都議選、当選できた自民党候補の特徴とは【統計分析】

 

 自民党は、先日行われた東京都議会議員選挙で、結党以来最悪と言われる惨敗を喫しました。さて、名著「失敗の本質ー日本軍の組織論的研究」にも書かれていますように、大きく負けた時こそ、自らの組織を分析し、改革する最大のチャンスです。

 

 今回の都議選、自民党は大きく議席を減らしましたが、この逆風の中でも当選している政治家はいます。どんな政治家が、この厳しい選挙戦を勝ち抜けたのでしょうか?そこに何か共通点はあるのでしょうか?

 

 今回の都議選のように、逆風が吹いたときの選挙結果を分析することは非常に重要です。なぜなら、逆風に強い政治家の特徴を明らかにすることは、自民党の本当の支持層がどのような候補者を好んでいるかを知ることできるからです。コアな自民党支持者は、どのような候補を好んでいるのでしょうか。

 

 このエントリーでは、2017年東京都議会議員選挙において、どんな特徴をもった自民党候補者が当選しやすかったのかを探ろうと思います。このような分析を参考にすれば、次の選挙で、より当選しやすい候補者の選定につながるかもしれません。

 

分析した自民党候補者のデータ

 対象としたのは、都議会議員選挙に立候補した自民党所属の候補者60人です。以下の候補者の属性のうち、当選確率に影響を与えていた要因を統計的に分析しました。

 

 分析に含めた候補者の属性は、1. 都議経験(現職・新人)、2. 都議の経験年数、3. 同じ選挙での区議/市議の経験、4.選挙区で生またか否か(地元出身)、5.年齢、6.性別の6つです。また、選挙区の属性として、公明党の選挙協力が得られず票がすべて都民ファーストに流れた15の選挙区(リスト)も解析に含めています。

 

 解析手法ですが、このエントリーの最後にあげた本を参考にしながら、ロジスティック回帰を行いました。各候補者が当選したかどうかを応答変数、上にあげた6つの要因を説明変数にして、重回帰を行っています。(統計学はまだまだ勉強中なので、突っ込みどころがあるかもしれません。が、統計の参考書の多くはわかりやすくて楽しいですね)

 

解析結果の概要

1. 都議経験・都議年数には有意な効果はなし。

 

 今回の解析結果では、都議経験の有無や都議の経験年数は有意な影響を与えていませんでした。実際、当選した議員のうち90%は現職候補でしたが、落選した議員の79%も現職候補でした。また都議の経験年数も効果が無かったので、ベテランの現職候補も1期目の現職候補も同じように落選したと言えます。年齢や性別、地元出身か否かも有意な影響がありませんでした。

 

 一般的に、議員経験(現職か新人か)は、当選確率に強い影響を持ちます。しかし、今回の解析結果では都議経験や都議の経験年数によって当選しやすさに差があるとは言えませんでした。いかに自民党にとって厳しい選挙だったかがわかると思います。また、都議歴の長い議員は、これまでの政治活動で、今回のように逆風でも投票してくれる「コアな支持者」を獲得できていなかったと言えるかもしれません。

 

 2. 公明党を失った15の選挙区では、低い当選率

 公明党との協力を失った15の選挙区に立候補した自民党議員は、それだけで当選確率が有意に低くなっていました。15の選挙区では、自民党議員が当選した確率は13.3% (2/15)だったのに対し、それ以外の選挙区では46.7%と大きな差があります。

 

 前回のエントリーでも議論しましたが、今回の自民党の最大の敗因の一つは、公明党との選挙協力を維持できなかったことです。これら15の選挙区に立候補した自民候補の方々は、それだけで絶望的に大きなハンデを負っていたことになります。

 

 3. 区議の経験がない候補の方が、当選率が高い

 意外な要因が、自民党議員の当選確率に影響していました。それは区議/市議の経験です。なんと、直感に反することに、過去に同じ選挙区で区議/市議の経験がある候補者は、都議選での当選確率が有意に低いという結果が得られました(下の図)。区議/市議経験のない候補者の当選率が55%だったのに対し、経験者の当選率は30%でした。これは、上にあげた15の選挙区を除いて解析しても同じ結果が得られています。

 

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なぜ、区議/市議の経験という、都議選を戦う上でいかにもプラスになりそうな要因が、マイナスに働いているのでしょうか。直感に反する要因だったので、この理由について少し議論してみます。

 

なぜ区議/市議経験はマイナスに働いたのか? 

可能性1:区議/市議の経験がある候補者は、“地元”を優先する。

 まず考えられるのは、区議・市議の時代に培った候補者の“地元感”が、都議選ではマイナスに働いていた可能性です。区議や市議を経験した候補者の場合、自分の生家や事務所を構える場所が“地盤”“地元”として捉えられる傾向があります。区議/市議選挙の場合、当選するための得票数が少なくて済むので、自分の地盤で集中的に活動をすることが当選への近道です。例えば、区議・市議は、“地元”の運動会や老人会、お祭り、自治会に優先して参加しているでしょう。そして、選挙期間中も、意識的・無意識的に、自分の“地元”を集中的に展開しているはずです。

 ただし、このような地元密着型の活動は、都議選においてはマイナスになっているかもしれません。区議/市議の選挙に比べ、都議選においては、5倍から10倍の得票数が必要です。そのため、選挙区中から満遍なく支持を集める必要があります。“地元”に密着している区議/市議経験のある候補者は、“地元”を優先してしまい、選挙区全体の支持を集めにくかったかもしれません。

理由2 区議/市議経験のない候補者は、党との繋がりが強い?

 次は、区議/市議経験のない候補者に注目してみます。自民党の候補者は、どういう職歴を経て、都議に立候補したのでしょうか。興味深いことに、区議/市議経験がなく都議に立候補した人の約半数が、自民党議員の秘書を経験していることがわかりました。この秘書という経歴が、都議選においても有利に働いた可能性があります。つまり、自民党議員と太いパイプがある候補者は、選挙活動において党の支援を受けやすく(例えば国会議員の応援演説など)、結果として区議/市議経験がない候補者の方が当選しやすかったというわけです。

理由3. 偶然、このような結果が出た。

 最後に、忘れてはならないのが、今回のデータは60人という極めて少ないサンプルで解析されたものだということです。区議/市議の経験は、p = 0.013という低い有意確率ではありましたが、偶然このようなことが生じた可能性は忘れてはならないと思います。今後、他の都道府県議会議員選挙で、解析する必要があります。

 

理由4?他に何かあるでしょうか。

 もし読者の方で、なにか他の可能性を思いつかれる方がいましたら、コメント欄かブックマークにお願いいたします。まとめたうえで、ここに追記したいと思います。よろしくお願いします。

 

結論:

 2017年の都議会議員選挙は、自民党に大敗北をもたらしました。自民党の立候補者60人の選挙結果を丹念に分析したところ、都議経験(現職か新人か)や、都議の任期年数などは当選確率に有意な影響を与えていませんでした。つまり、現職も新人も同じように当選/落選していたようです。

 一方、区議/市議経験という意外な要因が、当選確率に影響している可能性が示されました。区議や市議出身で都議選に出馬した候補者は、その他の候補者よりも、当選確率が低い傾向にありました。この理由については複数の要因が考えられますが、まだ検討中です。

参考にした統計の本など

統計学:Rを用いた入門書 改訂第2版

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多変量データ解析法―心理・教育・社会系のための入門

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