選挙解体新書

選挙の役に立つ研究・分析を紹介します。

選挙前に自然災害が起こると現職は不利になる。ただし・・・

 

 有権者は、候補者の「見た目」や「声」という政治家の資質や政策とは無関係の情報に基づいて、投票を行っていることを紹介してきた

 

 

 

 これらの研究が示しているのは、いうなれば有権者の非合理的な面である。

 

 しかし、もちろん、全ての有権者がこのような非合理的で直感的な投票をしているわけではない。有権者が、合理的に、候補者を評価して投票していることを示す研究も多くある。それが、経済投票や業績投票と呼ばれる一連の研究である。

 

社会状況が良いと、現職候補に投票する

 

 これらの研究は、有権者は、現職の政治家のこれまでの業績(例えば経済状況や治安状況)に基づいて、次の選挙でその政治家に投票するか否かを決めている、と考える研究分野である。

 

 例えば、世界中の多くの研究によって、有権者は、失業率の増加など経済状況が悪くなった選挙では、与党への投票が少なくなることが確認されている。有権者は、経済状況の悪化を政治家の責任であると考え、現職の候補への投票を減らすことで罰しているのだ。

 

 日本においても、経済状況に応じて政権与党への投票が変化する傾向が、学習院大学や愛媛大学の研究によって報告されている。つまり、社会状況が良いと有権者が判断するときは与党が、悪いと判断するときには野党が有利なようである。

 

 これは、まさに民主主義が想定している合理的な有権者だ。しかし、有権者は政治家とは関係のない理由でも、同じように現職の政治家を罰してしまう。

 

 それは、自然災害だ。

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/cc/ParmaMelor_AMO_TMO_2009279_lrg.jpg/1280px-ParmaMelor_AMO_TMO_2009279_lrg.jpg

 

自然災害があると現職が不利になる

 

 カーネギーメロン大学とボストン大学の研究者らは、アメリカの3100の郡における36年間もの大統領選と州知事選挙の投票データを統計的に解析することで、自然災害が現職候補への投票に与える影響を調べた。

 

 過去のデータを網羅的に調査することで、彼らは興味深い関係を見つけ出した。投票日前6か月に大きな災害に見舞われた自治体では、現職の大統領と現職の州知事への投票が減少することが、判明したのだ。

 

 

自然災害にうまく対応できれば、現職が有利になる

 

 この研究でさらに興味深いのは、自然災害に対処できた現職候補に不利にならないという発見だ。基本的に自然災害は現職に不利に働くが、適切に「非常事態宣言」が発令されると、現職の大統領と州知事への投票が増加することが明らかになったのだ。

 

 さらに、州知事が「大災害宣言」を請求したが連邦政府に却下された地域では、現職の州知事への投票は増加するが現職の大統領への投票は低下する。これらの結果は、有権者は、社会状況に敏感に反応して、その責任者である現職政治家への投票行動を変化させることを示している。

 

 

自然災害は、現職政治家の分水嶺となる

 

 日本は自然災害の多い国である。毎年のように、洪水、地震、土砂崩れ、台風などによる大きな被害が生じている。このような自然災害は、選挙を控えた現職の政治家にとっては、大きな分水嶺となる。

 

 2013年の台風26号による土砂災害で大きな被害が発生した伊豆大島のケースは記憶に新しい。このとき、町長の川島氏と副町長が二人とも出張で島の外に出ていたため、適切な避難勧告が出せず、危機対応のあり方として批判を浴びた。

 

全文表示 | 伊豆・大島町長「責任を一生背負っていく。早めに避難勧告出していれば…」 : J-CASTテレビウォッチ

 

 そして、このときの市長は、次の町長選挙で再選できなかった。

 

東京新聞:大島町長選は三辻さん 島復興、新人に託す:2015統一地方選(TOKYO Web)

 

 

 自然災害そのものは、政治家の責任ではない。しかしそれによって生じる生活環境の悪化や不安の増大を、有権者は政治家の責任として捉えてしまう傾向があるようだ。

 

 そのため、責任がないからと言って通常通りの政治活動をしていたのでは、有権者からそっぽを向かれてしまう。結果はどうであれ、生じた自然災害に対して適切に行動しているように見える政治家が投票される、ということだ(大災害宣言が却下された州知事でも、得票は増えた)。

 

 自然災害が起こった自治体の政治家は、適切に対処するのはもちろんのこと、対処していることを有権者にアピールすることが何よりの選挙活動になるだろう。

 

 

参考資料

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1540-5907.2010.00503.x/abstract

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaes1986/13/0/13_0_28/_pdf

 

関連記事